「子供はもうAIで学んでいる」——これは印象論ではなく、国の統計調査が示すデータです。総務省が2026年7月に公表した「令和8年版 情報通信白書」によると、日本で生成AIを使ったことがある人の割合は全体で26.7%にとどまる一方、15〜19歳では58.8%と、全世代で最も高い数字になりました。しかも10代がAIを使う目的として目立つのは、遊びではなく「翻訳」や「学習・教育支援」です。
本記事では、教育コンテンツ制作会社のエレファンキューブが、令和8年版 情報通信白書のデータをもとに、子供たちの学びに何が起きているのかを解説します。あわせて、白書が紹介する「AIと考える力」をめぐる2つの研究、国のガイドラインや支援策、そして学校・家庭でできることを整理します。
目次
令和8年版 情報通信白書とは?
情報通信白書とは、総務省が毎年公表している、日本の情報通信(ICT)の現状と政策をまとめた報告書です。1973年の刊行から数えて54回目となる令和8年版(2026年7月公表)は、「AIの進展がもたらす多面的影響〜人間とAIが健全に協働するデジタル社会の実現に向けて〜」を特集テーマに掲げ、日本・米国・ドイツ・中国の4か国で実施したアンケート調査をもとに、個人と企業のAI利用の実態を分析しています。
情報通信白書 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper
白書の冒頭では、AIがもたらす生産性向上などのメリットとともに、ハルシネーション(もっともらしい誤情報の出力)や、「過度な利用による批判的思考力の低下リスク」といった懸念も明記されています。つまり国の公式報告書自体が、AIの光と影の両方を正面から扱っているのです。子供の学びを考えるうえで、これほど信頼できる出発点はありません。
データで見る:10代はAIを「学び」に使っている
生成AIの利用経験は、若い世代ほど高い
白書によると、日本で生成AIサービスを「利用したことがある」と答えた割合は、年代別に次のとおりでした。
| 年代 | 生成AIの利用経験がある割合 |
|---|---|
| 15〜19歳 | 58.8% |
| 20〜29歳 | 43.8% |
| 30〜39歳 | 30.6% |
| 40〜49歳 | 24.4% |
| 50〜59歳 | 17.0% |
| 60〜69歳 | 12.1% |
| 全体 | 26.7% |

出典:総務省「令和8年版 情報通信白書」図表Ⅰ-1-1-7
15〜19歳の利用経験率(58.8%)は、全体平均(26.7%)の2倍以上です。親世代である40〜50代と比べると、その差はさらに開きます。「うちの子はまだAIなんて使っていないはず」という感覚と、実態の間には大きなギャップがあるかもしれません。なお白書は、米国・ドイツ・中国と比べると日本全体の利用率は依然として低い水準にあることも指摘しています。
使う目的の中心は「翻訳」と「学習・教育支援」
注目したいのは、何のためにAIを使っているかです。白書が目的別のAI利用状況を年齢別に分析したところ、どの目的でも「定期的に利用している」と答えた割合は若い世代ほど高く、特に「翻訳」と「学習や教育支援」の定期利用は15〜19歳で顕著に高いという結果になりました。

出典:総務省「令和8年版 情報通信白書」図表Ⅰ-1-1-11
さらに白書は、「日常の行動や判断にかかわる相談」のためにAIを定期利用する割合が15〜19歳と20〜29歳で20%を超え、「専門家にするような心身・生活・将来に係る相談」の定期利用も15歳から39歳までの各年代で15%を超えたと報告しています。若い世代にとってAIは、調べもののツールであると同時に、勉強を教えてくれる存在、そして相談相手にもなりつつあるのです。
使い方の「深さ」にも世代差がある

出典:総務省「令和8年版 情報通信白書」図表Ⅰ-1-1-9
利用頻度のデータを見ても、若い年代ほど日常的にAIに触れている様子がうかがえます。「たまに試した」のではなく、生活と学びの中にAIが組み込まれ始めている——これが白書の描く10代の姿です。
AIで学ぶと「考える力」はどうなる?白書が紹介する2つの研究
子供がAIで学ぶことに対して、多くの保護者や先生が抱くのは「自分の頭で考えなくなるのでは?」という不安でしょう。この問いについて、白書の第3章「AIの進展に伴う課題と対応」は、正反対の結果を示す2つの海外研究を紹介しています。どちらか一方だけを見て安心したり不安になったりするのではなく、両方を知っておくことが大切です。
プラスの研究:AIを使うと、短時間で質の高いアイデアが生まれた
白書が紹介するドイツ・レーゲンスブルク大学のチームによる研究では、学生の参加者を「AI支援ツールを使うグループ」と「使わないグループ」に分けて課題に取り組ませ、できあがったアイデアを専門家が評価しました。その結果、AIを使ったグループはより短時間で質の高いアイデアを発想でき、結果への満足度や作業への関与度も高かったと報告されています。研究チームは、アイデアを生み出す段階でAIが創造性と効率の両方を高める役割を果たすと結論づけています。
気になる研究:最初からAI任せだと、脳の働きと「自分の文章」感覚が弱まった
一方、白書は米MIT Media Labなどのチームによる研究も紹介しています。参加者を「生成AI(大規模言語モデル)を使う」「検索エンジンを使う」「何も使わず自分の頭だけで書く」の3グループに分けて小論文を書かせ、脳波などを測定した実験です。
その結果、最初からAIを使ったグループは脳内の神経結合が比較的弱く、書き終えた直後に自分の文章を正確に思い出して引用する力も低いという結果が出ました。書いた文章が「自分の成果だ」という感覚も、AIを使ったグループが最も低かったといいます。興味深いのは、先に自分の頭だけで書いてから後でAIを使ったグループでは、記憶の想起が良好で、脳の広い領域で神経活動の再活性化が見られたという点です。
白書の有識者はどう見ているか
この2つの研究をどう受け止めればよいのでしょうか。白書に収録された有識者ヒアリングでは、国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの山口真一教授が、AIへの置き換えが進めば人間単体では能力の低下が起こりうるかもしれないとしつつ、実際には人間とAIとの「協働」によってトータルとしての人間の能力は向上するのではないか、という視点を示しています。また山口教授は、生成AIの普及スピードに比べてリテラシーや知識の普及が追いついていない現状を指摘し、子ども世代のみならず全世代でリテラシー啓発を進める必要性を述べています。
つまり論点は「AIを使うか・使わないか」ではなく、「どの順番で、どう使うか」に移りつつあります。先ほどのMITの研究が示唆するように、まず自分で考えてからAIと対話する学び方と、最初からAIに答えを出させる学び方とでは、頭の働き方が変わりうるのです。
国はどう動いている?子供のAI利用を支えるガイドラインと施策
白書からは、国が子供のAI利用を「禁止」ではなく「適切に使いこなす力の育成」という方向で支えようとしていることも読み取れます。教育・リテラシーに関わる主な取り組みを整理しました。
| 取り組み | 主な対象 | 内容 |
|---|---|---|
| 初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(文部科学省) | 小・中・高校 | 学校現場での生成AI利活用の考え方を示すガイドライン |
| 大学・高専における生成AIの教学面の取扱いについて(文部科学省) | 大学・高専 | 高等教育での生成AIの教学面での取り扱いを整理 |
| 生成AI はじめの一歩(総務省) | これからAIを使う人全般 | 生成AIの基礎知識、入門的な使い方、注意点を紹介する入門資料 |
| ICTリテラシーチェッカー(総務省) | 青少年 | 自分のICTリテラシーレベルを測定できる自己測定ツール |
| DIGITAL POSITIVE ACTION(総務省・企業等連携) | 幅広い世代 | 2025年1月始動の意識啓発プロジェクト。世代・習熟度別の教材マップ等を公開 |
また、総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン」では、AIに関わる人が正しい理解とリテラシー・倫理観を持てるよう教育を行うことが期待される旨が示されています。2025年5月に制定されたAI法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)のもと、「信頼できるAI」の実現と教育・リテラシーの向上は、国の政策として一体で進められているのです。
ここからは、3,000件以上の教育コンテンツ制作に携わってきたエレファンキューブとしての意見です。
白書のデータが示すとおり、10代の半数以上がすでに生成AIに触れ、学習目的での利用が最も定着している世代になっています。この現実の前では、「AIを使わせない」という選択肢は実効性を失いつつあると私たちは考えます。取り組むべきは、AIがあることを前提に「考えるプロセスが残る学び」を設計することです。
具体的には、MITの研究が示唆した「順番」の考え方が実務のヒントになります。たとえば、まず自分の考えを書き出してからAIに壁打ちさせる課題設計、AIの回答に対して「本当にそうか?」と根拠を確かめさせる問いの設定、AIの答えと自分の答えを比べて違いを説明させる振り返りなどです。私たちが教材を制作する際も、「答えを教える教材」ではなく「考える手順を体験させる教材」への転換が、AI時代の学習設計の核心だと感じています。
もう1つ大切なのは、保護者を置き去りにしないことです。白書のデータが示す利用率の世代間ギャップは、そのまま家庭内の会話のギャップになります。子供向けの教材と同時に、保護者が生成AIの基本と関わり方を学べるコンテンツをセットで届けることが、学びの土台を支えると考えています。
よくある質問(FAQ)
令和8年版 情報通信白書はどこで読めますか?
総務省のWebサイトで全文が公開されており、誰でも無料で読むことができます。本文のほか、グラフの元データをまとめたデータ集も公開されています。
子供の生成AI利用は制限すべきですか?
一律の禁止よりも、発達段階と目的に応じた使い方のルールづくりが現実的です。文部科学省は初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドラインを公表しており、学校での取り扱いの考え方が示されています。家庭では、総務省の「生成AI はじめの一歩」のような入門資料を親子で見ながら、何に使ってよいか・何に注意するかを一緒に決めることをおすすめします。
学校向けのAIリテラシー教材はどう選べばよいですか?
「操作方法を教える教材」だけでなく、AIの答えを確かめる・比べる・自分の考えと突き合わせるといった思考のプロセスを組み込んだ教材かどうかが選定のポイントです。また、児童生徒向けと教職員・保護者向けがセットになっているかも重要です。国のガイドラインや啓発資料と整合した内容であることも確認しましょう。
まとめ:データを知ることが、子供の学びを守る第一歩
令和8年版 情報通信白書が示したのは、10代の子供たちがすでにAIとともに学び始めているという事実と、AIとの付き合い方次第で学びの質が変わりうるという研究知見でした。大人の役割は、AIを遠ざけることではなく、子供が「AIと考える力」を育てられる環境を用意することです。
エレファンキューブでは、学校・教育機関向けに、情報モラル・AIリテラシーをテーマとしたeラーニング教材や映像教材の企画・制作を行っています。「子供たちにAIとの正しい付き合い方をどう教えるか」でお悩みの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
出典
- https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/
総務省「令和8年版 情報通信白書」(2026年7月公表)。本記事の統計データ・研究紹介・有識者コメントは、特に断りのない限り同白書の記載に基づきます。図表画像は政府標準利用規約に基づき出典を明記のうえ掲載しています。 - https://www.soumu.go.jp/use_the_internet_wisely/special/generativeai/
総務省「生成AI はじめの一歩〜生成AIの入門的な使い方と注意点〜」 - https://www.soumu.go.jp/use_the_internet_wisely/
総務省「上手にネットと付き合おう!〜安心・安全なインターネット利用ガイド〜」 - https://arxiv.org/abs/2506.08872
白書内で紹介されている研究:Michael Gindert, et al.(2024)、Nataliya Kosmyna, et al.(2025)”Your Brain on ChatGPT”
最終更新日: 2026-07-31

