どの組織にも、ひとりくらいは「避難訓練の日に限って外に出ている人」がいるものです。企業なら外回りの営業。役所なら、窓口対応や現場業務で庁舎を離れていた職員。悪気はありません。予定は相手の都合で決まりますし、訓練は年1回の決まった時間ですから、こうしたことは自然に起こります。
問題は、その人が初期消火の判断も、安否報告のルールも、「なんとなく」しか知らないまま働き続けることです。シフト勤務の人も、在宅勤務の人も、訓練のあとに異動・入職してきた人も同じです。
昨年の訓練、参加できたのは全体の何割だったでしょうか。
9月1日は防災の日です。1923年の関東大震災にちなんで制定され、8月30日〜9月5日の防災週間には、全国の企業や自治体で訓練や点検が行われます。企業の総務・人事のご担当、そして自治体で防災・危機管理・職員研修を担当されている方に、今年はひとつだけ提案があります。訓練の「中身」ではなく、訓練から「こぼれている人」に目を向けてみませんか。
訓練は、「参加できた人」には良い仕組みですが…
先に申し上げておくと、避難訓練は意味が無いという話ではありません。実際に経路を歩き、非常口の位置を体で知る経験は貴重なもので、即時の判断をしなければならない災害発生時には、この訓練が大きな効果を発揮します。訓練は防災教育の柱であり続けるべきです。
問題は、訓練「だけ」に頼る構造にあります。訓練は、その性質上「その日、その場にいた人」のための教育です。働き方が多様になったいま、1回で全員揃って実施するのは難しいことでしょう。しかし災害は、訓練に参加した人にだけ襲い掛かるものではありません。
訓練にはもうひとつ、「忘れやすい」という側面もあります。直後は覚えていた手順も、半年後にはあいまいになってしまうものです。学習科学の分野では、1回の長時間学習よりも、短時間の学習を間隔を空けて繰り返すほうが記憶に残りやすいことが知られています。年1回のイベント形式は、実は記憶の仕組みとあまり相性がよくないのです。
また、訓練で手元に残る記録は参加者名簿だけで、誰がどこまで理解したかは残りません。
毎年「実施した」という事実だけが積み上がり、実態が伴っているかは誰にも確かめられないのです。
この状態には、2つのリスクが潜んでいます。ひとつは、いざ災害が起きたとき、その場にいる人が実際には動けないというリスク。もうひとつは、教育を尽くしていたかどうかを後から問われたとき、示せるものが何もないというリスクです。
知識はeラーニングで、体験は訓練で
私たちの提案は、eラーニングを訓練の代わりにすることではなく、役割分担をすることです。知識はeラーニングで全員に繰り返し届け、体験は訓練で確かめる。この2段構えにすると、次の3つが手に入ります。
- こぼれる人がいなくなる──時間と場所を選ばないため、外勤も夜勤も在宅も、異動・入職してきた人も、同じ品質の教育を受けられる
- 繰り返せる──5〜10分の単元に分ければ、入職時・異動時・防災週間と反復を設計できる。年1回の「イベント」が年間の「習慣」に変わる
- 記録が残る──学習管理システム(LMS)で配信すれば、受講状況と理解度テストの結果が自動で蓄積される
さらに、この土台があると訓練そのものも変わります。全員が知識を持った状態で行う訓練は、「言われた通りに歩く行事」から「知識を体で確かめる場」になります。同じ訓練でも、得られるものが違ってくるのです。
自治体には、企業とは違う「もう一つの相手」がいる
ここまでは、企業も自治体も共通の話です。ただ、自治体にはもう一つ、大きな役割があります。職員を守るだけでなく、住民に防災を伝えるという役割です。
災害時、住民一人ひとりが自分で判断し行動できるかどうかは、平時の啓発にかかっています。しかし、自主防災組織の訓練や防災講演会に来てくれるのは、防災意識の高い一部の住民に限られがちです。仕事や子育てで忙しい世代、障がいをお持ちで会場での参加が難しい方、日本語での案内が届きにくい外国人住民──本当に届けたい層ほど、対面の場からこぼれ落ちてしまう。この構造は、企業の避難訓練が抱える課題とよく似ています。
デジタル教材なら、この壁を越えられます。スマートフォンで、通勤の合間や家事の合間に、自分のペースで学べる。文字を大きくしたり、ふりがなをつけたり、多言語に対応したりと、多様な住民に合わせた設計ができる。ハザードマップの見方、避難所での過ごし方、要配慮者への手助けといった内容を、地域の実情に沿って届けられます。「訓練に来た人だけ」から「スマホを持つすべての住民へ」と、啓発の届く範囲が大きく広がります。
「うちの防災」こそ、教材にする価値がある
市販の防災コンテンツでも一般的な知識は学べます。ただ、災害の瞬間に人を守るのは、その組織・その地域に固有の情報です。
企業なら、自社の避難経路や安否確認システムの操作手順、拠点ごとに違う想定災害。自治体なら、その地域のハザード(地震・水害・土砂災害など地域ごとに異なる災害リスク)、指定避難所の位置、地域独自の連絡体制。こうした内容は汎用教材ではカバーできず、オリジナル教材を作る価値が最も大きい部分です。
費用を心配される方も多いのですが、防災教材はゼロから書き起こさなくてもできます。多くの組織には、防災マニュアルやBCP(事業継続計画。災害時にも機能を止めない、止まっても早く立て直すための計画)、地域防災計画や住民向けの配布物があります。実際の作業は、それを「読まれる・使われる教材」に変換すれば、素材があるぶん、制作の費用も期間も抑えられます。
まずは、手元の資料を開くことから
いまお手元にある防災マニュアルや啓発資料を開いてみてください。「これを対象の全員が読んで理解している状態」と現状のあいだに、どれくらいの距離があるでしょうか。その距離の大きさが、そのまま教材化の価値の大きさです。
災害大国と呼ばれる日本に住んでいる私たちは、常に災害と隣り合わせで生活しています。
防災は、特に地震に関してが注目されがちですが、地域によっては津波・噴火などの災害もありますし、大雪・台風による帰宅困難や、最近では線状降水帯による水害や土砂災害などのニュースも記憶に新しいかと思います。
もはや災害は「起きるかどうかも分からない出来事」ではなく、「いつ起きてもおかしくない危険」です。もしもの時に皆が適切な行動をとり、自分やその場にいる人の命を守ることができるよう、この機会にしっかり準備してみませんか。
私たちは、企業の従業員教育から、自治体の職員研修・住民啓発まで、デジタル教材の制作を専門にしています。
「どんなものを作ればよい?」といった漠然としたところからでも構いませんので、ぜひご相談ください。現状をヒアリングし、どんなものが合っているか整理するところからお手伝いいたします。
▼ ご相談はこちらから
子供の授業向けの内容ですが、オープン教材として防災教育のスライドを公開しています。
スライド内容のクイズを、インタラクティブなドリル教材にすることも可能ですので、ご参考まで。
最終更新日: 2026-08-28

