「認知的オフロード」とは?AIで学力が下がる?文科省とOECDが示した学校AI活用のリスクと対策

認知的オフロードとは、本来自分の頭で行う「考える・覚える」といった作業を、道具に肩代わりさせることをいいます。それ自体は昔からある人間の知恵ですが、生成AIの登場によって「学びに必要な考える過程まで丸ごと省略されてしまうのではないか」という懸念が、いま世界の教育関係者の間で議論されています。この記事では、文部科学省・デジタル学習基盤特別委員会(第10回、2026年6月30日)の配布資料と、そこで紹介されたOECDの最新報告書・学術研究をもとに、「AIで学力は下がるのか」という疑問に、現時点の研究が示す答えと、家庭や学校でできる対策を解説します。
本記事は、学校のAI活用のいまを読み解く全3回シリーズの最終回です。第1回では生成AIガイドラインVer2.1への改訂検討を、第2回ではパイロット校478校の実践とデータを解説しました。

目次

認知的オフロードとは?身近な例でわかりやすく

むずかしそうな言葉ですが、実は誰もが毎日やっていることです。電話番号を覚える代わりにスマホに登録する。道順を覚える代わりにカーナビに任せる。暗算の代わりに電卓を使う。このように、頭の中の作業(認知)を外の道具に降ろす(オフロードする)ことが、認知的オフロードです。

道具に任せること自体は悪いことではありません。問題は、「その作業を経験すること自体が学びの目的」である場面で、道具に任せてしまうことです。たとえば計算の仕組みを学んでいる小学生が電卓だけで宿題を済ませたら、計算力は育ちません。生成AIが従来の道具と違うのは、計算や記憶だけでなく、「文章を考える」「構成を練る」「アイデアを出す」といった学びの中心にある知的な作業まで、丸ごと肩代わりできてしまう点にあります。

文部科学省の資料1でも、Ver2.1へのガイドライン改訂の検討項目の一つとして「過度な学習過程のショートカットへの対応(認知的オフロードの発生による深い学びを阻害している例等)」が明記されており、国の政策レベルでも正面から扱われるキーワードになっています。

OECD「Digital Education Outlook 2026」は何を指摘したか

この議論の国際的な土台になっているのが、OECD(経済協力開発機構)が2026年1月19日に公表した報告書「Digital Education Outlook 2026」です。教育分野における生成AIの効果的な活用に関する最新の研究成果をまとめた、計247ページにおよぶ中核的な報告書で、文部科学省の資料1でもその要点が紹介されています。

報告書のメッセージを一言でまとめるなら、「拒絶でも放任でもなく、設計せよ」です。資料1で紹介されている要点は次のとおりです。

  • 生成AIは世界中の教育システムに急速に導入されつつあり、一人一人に応じた支援の拡張、フィードバックの質の向上、評価の一部自動化を可能にしている
  • 一方で、生徒や教員の主体性を弱めたり、学習過程を省略すること(認知的オフロード)で学習効果を低下させたりするリスクも指摘されている
  • 進むべき道は技術を拒絶することではなく、教育的な意図と方法論的な厳密さをもって取り組むこと
  • 教師には、生徒の成果物よりも「思考や学習のプロセス」を重視することが求められる
  • 政策立案者の課題は、生成AIが学習の「近道(ショートカット)」ではなく、学習の「パートナー」となることを保証すること

「AIで学力が下がる」は本当か?研究が示していること

では、実際の研究データは何を示しているのでしょうか。資料1で紹介されている代表的な研究を見てみましょう。

使い方しだいで「害」にも「力」にもなる(Bastaniらの実験)

米ペンシルベニア大学ウォートン校のBastaniらが2024年に発表した研究「Generative AI Can Harm Learning(生成AIは学習を害しうる)」は、トルコの高校生1,000名を対象に、数学の学習で①授業ノートと教科書のみ、②一般向けの汎用AI、③学習支援用に調整されたAI、の3グループに分けて比較した大規模な実験です。

結果は示唆に富んでいます。AIを使いながら解く練習問題の成績は、汎用AIグループで48%、学習支援用AIグループで127%も向上しました。ところが、AIを取り上げて何も見ずに解くテストでは、汎用AIグループの成績は①のグループより17%低くなったのです(学習支援用AIグループは①と同等)。つまり、答えをすぐ教えてくれるAIに頼った生徒は「できた気」になっていただけで、力そのものは育っていなかった——一方、答えを直接教えずヒントを出すよう設計されたAIでは、その悪影響が見られなかった、ということです。

考える手順が「省略」される(Chenらの研究)

2025年に学術誌Computers & Educationに掲載されたChenらの研究は、作文の修正について「人間の専門家に相談する場合」と「汎用AIに相談する場合」の行動を比較しました。人間の専門家と対話した学生は「問題の診断→助けを求める→評価する→繰り返す→実行する」という段階を踏んで考えていたのに対し、AIを使った学生の一部は、AIが出した解決策をそのまま即座に実行し、診断・評価・反復という考える手順を頻繁に飛ばしていました。研究チームはこれを、深く考えずにAIに頼る認知的オフロードが起きていると指摘しています。

批判的に考える力との関係(Gerlichの調査)

2025年に学術誌Societiesに掲載されたGerlichの調査研究では、AIツールを頻繁に使う人ほど批判的思考(情報をうのみにせず吟味する力)のスコアが低いという統計的にはっきりした相関(有意な相関)が見られ、その間を認知的オフロードが媒介している可能性が示されました。とくに若い世代ほどAIへの依存度が高く、批判的思考スコアが低い傾向があったといいます。ただしこれは相関関係を示した研究であり、「AIを使ったから考える力が下がった」という因果関係まで証明したものではない点には注意が必要です。

希望を示す研究もある

一方で、資料1はAIの可能性を示す研究も紹介しています。41の研究を統合した2025年のメタ分析(Kaliisaら)では、AIによる学習フィードバックは人間によるものと統計的に同程度の学習効果をもたらすことが示されました(ただし学習者は人間からのフィードバックのほうを信頼できると感じる傾向があり、両者を組み合わせるハイブリッド型が提唱されています)。また、スタンフォード大学で開発された指導者支援AI「Tutor Copilot」の研究(Demszky, 2026)では、経験の浅い指導者がAIの支援を受けることで、生徒の確認テストの合格率が9%改善したと報告されています。

まとめると、研究が示しているのは「AIを使うと学力が下がる」という単純な話ではなく、「答えを丸ごと受け取る使い方は学びを損ないうるが、考える過程を支える使い方は学びを助けうる」という、使い方の設計しだいで結果が分かれるという事実です。

文科省資料が示すリスクへの向き合い方:禁止ではなく「設計」

文部科学省の資料1も、こうしたリスクの存在をもって「直ちに利活用を否定するものではなく、リスクの存在を踏まえて人間中心の利活用に向けて向き合っていく姿勢が重要」という立場を明確にしています。そのうえで、ガイドラインの改訂(Ver2.1)、教育分野に特化したAIの実証研究、リスク評価のためのデータ整備、安全に使えるインフラ整備という4つの取組を進める方向性を示しています。

資料1には、有識者が実際の授業実践を見てコメントした「学習場面における懸念の例」も掲載されており、授業でAIを使うときのチェック観点として次の5つが読み取れます。

観点問いかけ
教育目的との整合なぜこの学習でAIを使うのか。育てたい力とつながっているか
学習者の主体性子ども自身が発想・試行する過程が省略されていないか
授業への位置づけどの場面で、どんな意図でAIを使うのかが明確か
AIの役割の制御本来子どもが考えるべき部分までAIが代わりに担っていないか
出力の吟味・検証AIの答えを何と照らし合わせ、どう確かめたか

AIに任せてよいこと・自分で考えるべきこと【筆者の視点】

ここからは、教材設計(インストラクショナルデザイン)に携わる立場からの筆者の意見です。ここまでの研究を実践に落とし込むなら、判断の軸はシンプルに一つだと考えています。「その作業を経験することが、この学びの目的かどうか」です。

目的である作業——たとえば作文の授業で構成を考えること、数学で解き方を試行錯誤すること——は、自分でやるべき部分です。ここをAIに任せると、Bastaniらの実験の「できた気になっただけ」の状態が起こります。一方、目的ではない周辺作業——資料集めの下ごしらえ、自分が書いた文章への別の視点の提示、練習相手——は、AIに任せることでむしろ本来の学びに時間を使えるようになります。第2回で紹介したパイロット校の好事例は、いずれもこの線引きができていた実践だといえます。

もう一つ大切なのは、「まず自分でやってから、AIに聞く」という順番です。Chenらの研究が示したように、省略されやすいのは「診断」と「評価」、つまり考え始めと考え直しの部分です。自分の答えを先につくってからAIと比べる、AIの提案を採用するかどうかを自分の言葉で説明する——この順番を習慣にするだけで、AIは近道ではなくパートナーに近づきます。

学校でできること・家庭でできること

学校では、文部科学省のガイドライン(Ver2.0)が示すとおり、AIの答えをうのみにしない使い方を教えることも情報活用能力の育成の一部です。上の表の5つの観点を授業設計のチェックリストとして使うほか、「成果物ではなく過程を評価する」というOECD報告書の指摘を、課題の出し方や評価方法に反映していくことが考えられます。なお、次期学習指導要領に向けた検討では、小学校から高校まで発達段階に応じて「AI自体を学ぶこと」と「AIを活用して学ぶこと」を体系的に扱う方向性も資料1で示されています。

家庭では、頭ごなしに禁止するよりも、使い方を一緒に確かめるほうが現実的です(※ここは筆者の意見を含みます)。たとえば「AIの答えのどこが良かった?自分ならどう直す?」と聞いてみる、宿題は自分で解いてから答え合わせや別解探しにAIを使う、といった関わり方です。また資料1では、UNICEFが2025年に改訂した指針が、子どもがAIを人間のように感じて感情的に依存してしまうリスクや、AIへの愛着から個人情報を打ち明けてしまうリスクを指摘していることも紹介されています。長時間の一対一の対話が続いていないか、気にかけてあげることも大人の役割といえるでしょう。

よくある質問(FAQ)

AIを使うと本当に学力が下がるのですか?

「使い方しだい」というのが現時点の研究の答えです。答えをそのまま受け取る使い方では、AIなしで解くテストの成績がAIを使わなかった生徒より低くなったという実験結果(Bastaniら、2024)がある一方、ヒントを出すよう設計されたAIではその悪影響は見られませんでした。AIによるフィードバックが人間と同程度の学習効果を持つことを示したメタ分析もあります。

認知的オフロードは悪いことなのですか?

それ自体は悪いことではありません。カーナビや電卓のように、道具に作業を任せることは人間の自然な知恵です。問題になるのは、「その作業を経験すること自体が学びの目的」である場面で任せてしまったときです。学びの目的にあたる部分は自分で行い、周辺の作業をAIに任せるという線引きが大切です。

子どもが宿題でAIを使うのは「あり」ですか?

一律の答えはなく、文部科学省のガイドラインも一律の禁止や義務付けはしていません。判断の目安になるのは「宿題のねらいをAIが代わりにやっていないか」と「自分で考えてから使っているか」の2点です。学校や教育委員会が方針を示している場合はそれに従ってください。

シリーズのまとめ

全3回でみてきたように、学校のAI活用は「原則を示す」段階から「使い方を設計する」段階へと進んでいます。ガイドラインはVer2.1への改訂が検討され(第1回)、478校のパイロット校から授業と校務の両面で具体的な成果が生まれ(第2回)、そして認知的オフロードをはじめとするリスクにも、研究にもとづいた向き合い方が見えてきました(第3回)。共通するメッセージは一つ——AIを学びの「近道」ではなく「パートナー」にするのは、人間の側の設計だということです。

「考える過程」を大切にした教材づくりを支援します

エレファンキューブは、eラーニング教材や研修動画の企画・制作を専門とするデジタル教育コンテンツの制作会社です。本記事で解説したとおり、AI時代の教材に求められるのは「答えを与える」設計ではなく「考える過程を支える」設計です。インストラクショナルデザインの知見にもとづく情報活用能力育成教材、教職員・保護者向けのAIリテラシー研修動画などの制作をご検討の際は、お気軽にご相談ください。

出典・参考資料

  • 文部科学省「デジタル学習基盤特別委員会(第10回)配布資料」資料1「学校教育におけるAI活用に関するこれまでの取組と今後の方向性」(2026年6月30日)※本記事の研究紹介は本資料の整理にもとづく
    https://www.mext.go.jp/content/20260630-mxt_shuukyo01-000050664_2.pdf
  • OECD (2026), OECD Digital Education Outlook 2026: Exploring Effective Uses of Generative AI in Education(2026年1月19日公表)
  • Bastani, H. et al. (2024), “Generative AI Can Harm Learning”, The Wharton School Research Paper
    http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.4895486
  • Chen, A. et al. (2025), “Unpacking help-seeking process through multimodal learning analytics: A comparative study of ChatGPT vs Human expert”, Computers & Education, Vol. 226
    https://doi.org/10.1016/j.compedu.2024.105198
  • Gerlich, M. (2025), “AI Tools in Society: Impacts on Cognitive Offloading and the Future of Critical Thinking”, Societies, 15(1), 6
  • Kaliisa, R. et al. (2025), “How does artificial intelligence compare to human feedback? A meta-analysis of performance, feedback perception, and learning dispositions”, Educational Psychology
    https://doi.org/10.1080/01443410.2025.2553639
  • 文部科学省「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」(2024年12月26日公表)
    https://www.mext.go.jp/a_menu/other/mext_02412.html

※本記事は2026年7月時点の公開資料にもとづいています。学術研究の紹介は文部科学省資料1における整理を基本としており、各研究の詳細は上記の原典をご参照ください。Gerlich(2025)の研究は相関関係を示したものであり、因果関係を証明したものではありません。

最終更新日: 2026-07-07