2026年6月30日、文部科学省の「デジタル学習基盤特別委員会」(第10回)において、学校向けの生成AIガイドラインを現行のVer2.0からVer2.1へ改訂することを検討する案が示されました。次期学習指導要領の改訂を待たずに、先行してガイドラインを見直すという提案です。この記事では、公表された配布資料をもとに、改訂が検討される背景と、検討されている6つのポイントをわかりやすく解説します。
本記事は、文部科学省の最新資料から学校のAI活用のいまを読み解く全3回シリーズの第1回です。第2回では全国478校に広がったパイロット校の実践とデータを、第3回では「認知的オフロード」をキーワードにAI活用のリスクと対策を取り上げます。
目次
デジタル学習基盤特別委員会とは
デジタル学習基盤特別委員会は、文部科学大臣の諮問機関である中央教育審議会のうち、小中高校などの教育を扱う「初等中等教育分科会」の下に置かれた委員会です。GIGAスクール構想で整備された1人1台端末やネットワークといった「デジタル学習基盤」を、これからの学びにどう生かしていくかを専門的に議論しています。
2026年6月30日に開催された第10回の会合では、「学校教育におけるAI活用に関するこれまでの取組と今後の方向性」(資料1)が示され、この中でガイドライン改訂の検討項目案が提示されました。あわせて、教育情報セキュリティポリシーの改訂や次世代の校務DXについても資料が配布されています。
現行ガイドライン(Ver2.0)のおさらい
まず、現在の到達点を確認しておきましょう。文部科学省は、ChatGPTの登場からまもない2023年(令和5年)7月に「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン(Ver1.0)」を公表しました。その後、有識者による検討会議での議論を経て、2024年(令和6年)12月26日に「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver2.0)」へと改訂しています。
Ver2.0の性格を一言でいえば、「禁止でもなく、義務でもなく、参考資料」です。教職員や教育委員会などの学校教育関係者を主な読み手として、次のような考え方を示しています。
- 人間中心の利活用:生成AIは有用な道具になり得るものと捉えつつ、出力はあくまで参考の一つ。最後は人間が判断し、責任を持つ
- 情報活用能力の育成強化:生成AIの仕組みの理解や、学びに生かす力を、各教科等の中で意識的に育てていく
- 場面・主体ごとの整理:児童生徒が学習で使う場面、教職員が校務で使う場面、教育委員会が押さえるべきポイントをそれぞれ整理し、チェック項目も用意
とくに教育委員会に対しては、「一律に禁止・義務付けるなどの硬直的な運用は望ましくない」と明記されている点が特徴です。
なぜ今、Ver2.1への改訂を検討するのか
Ver2.0の公表からまだ1年半ほどしか経っていません。それでも改訂の検討が始まる背景として、資料1では大きく次の3つの状況変化が挙げられています。
1つめは、AIの利用が「特別なこと」ではなくなったことです。普段使っている検索エンジンにもAIが組み込まれるなど、学校現場でも生成AIに触れる機会が急速に広がっています。次期学習指導要領に向けては、情報活用能力の抜本的向上をめぐる議論も進んでいます。
2つめは、リスクに関する国際的・学術的な知見が蓄積されてきたことです。資料1では、OECDが2026年1月に公表した報告書「Digital Education Outlook 2026」や、AIに頼ることで考える過程が省略されてしまう「認知的オフロード」に関する研究などが紹介されています(この論点はシリーズ第3回で詳しく取り上げます)。
3つめは、国内の実践事例が蓄積されてきたことです。生成AIパイロット校は令和8年度に478校・149自治体(認定校を含む)まで拡大し、文部科学省の実証研究からも具体的な事例が生まれています(第2回で詳しく紹介します)。
一方で資料1は、現状の課題として「ガイドラインが原則論に留まり、具体性が乏しい」こと、リスクを過度に恐れて適切な利活用が広がらない現状があることも率直に指摘しています。こうした状況を踏まえ、参考資料という位置づけや「人間中心の利活用」という基本的な考え方は維持しつつ、専門家や教育関係者・事業者へのヒアリングを行いながら、学習指導要領の改訂を待たずにガイドラインを改訂してはどうか、というのが今回の提案です。
改訂で検討されている6つのポイント
資料1では、Ver2.1に向けた検討項目の案として、次の6点が示されています。あくまで検討段階の案であり、今後の議論によって内容が変わる可能性がある点にはご注意ください。
| 検討項目(案) | 具体的なイメージ |
|---|---|
| 1. 技術の進展に関する現状認識・リスク関連の学術研究、国際的な議論 | エージェントAIなどの技術動向、学術研究やOECD・諸外国での議論の反映 |
| 2. 教師の役割 | 教師が担うべき業務とAIが担い得る業務の整理 |
| 3. AIサービスの提供者に求められる視点 | 教育分野特有のリスク低減に向けて事業者に求められる対応 |
| 4. 情報活用能力 | 情報活用能力の抜本的向上、小中高の各段階におけるAIの学習 |
| 5. 学習活動で利活用する場面 | 過度な学習過程のショートカット(認知的オフロード)への対応、AIに関連した学習課題の提示や評価の考え方 |
| 6. 教職員の校務場面における活用 | AIの活用により効率化・高度化できる校務の具体例 |
このほか、著作権やセキュリティに関する事項も最新の状況を踏まえて内容に反映するとされています。全体として、「原則を示す」段階から「効果的な場面と活用すべきでない場面を具体例で示す」段階へと踏み込む方向性が読み取れます。
また、ガイドライン改訂は単独の施策ではなく、「安全かつ主体的にAIを活用できる学習環境の構築」に向けた4つの取組の一つとして位置づけられています。資料1では、
①ガイドラインの改訂と研修を通じた周知広報
②教育分野に特化したAIの実証研究
③基盤的なデータの整備とAIのリスク評価
④学校現場で安全にAIを使えるインフラ整備
という4つの方向性が示されています。
学校・教育委員会は今なにをすべきか【筆者の視点】
ここからは、教育コンテンツ制作に携わる立場からの筆者の意見です。改訂を「待つ」のではなく、いま動き出すことをおすすめします。理由は2つあります。
第一に、改訂の方向性がすでに見えているからです。検討項目案を見ると、Ver2.1は「使ってよいか」ではなく「どう使うか・どう使わないか」を具体的に示すものになりそうです。つまり、いまVer2.0に沿って校内ルールづくりや小さな実践を始めておけば、その経験はVer2.1でそのまま生きる可能性が高いといえます。
第二に、資料1が指摘するとおり、リスクを過度に恐れて立ち止まることこそが課題とされているからです。教職員向けの研修や情報共有の場を用意し、「小さく試して、確かめながら広げる」体制を整えておくことが、改訂後のスムーズな移行につながると考えます。まずは校務での活用など、児童生徒への影響が間接的な場面から始めるのが現実的でしょう。
よくある質問(FAQ)
ガイドラインVer2.1はいつ公表されますか?
公表時期は決まっていません。2026年6月30日の第10回デジタル学習基盤特別委員会で示されたのは、検討項目の案と「学習指導要領の改訂を待たずに改訂してはどうか」という進め方の提案であり、今後、専門家や教育関係者・事業者へのヒアリングを行いながら検討が進められる見通しです。
Ver2.0との一番大きな違いは何になりそうですか?
検討項目案から読み取れるのは「具体化」です。原則論にとどまらず、効果的な活用場面と活用すべきでない場面を具体例で示す方向が示されています。あわせて、エージェントAI(人の指示のもとで自律的に作業を進めるタイプのAI)などの新しい技術動向や、認知的オフロードをはじめとする最新の学術知見を反映することが検討されています。
改訂までの間、学校は生成AIを使ってよいのでしょうか?
現行のVer2.0が引き続き参考資料として有効です。Ver2.0は一律の禁止や義務付けを求めるものではなく、人間中心の利活用を基本に、リスクへの対策を講じたうえで場面に応じて活用を検討する枠組みを示しています。今回の改訂検討でも、この位置づけと基本的な考え方は維持するとされています。
まとめ:シリーズ次回は「478校の実践データ」
学校の生成AIガイドラインは、原則を示すVer2.0の段階から、具体的な使い方を示すVer2.1の段階へ進もうとしています。背景にあるのは、技術の急速な進化、国際的・学術的な知見の蓄積、そして全国の学校で積み上がってきた実践です。次回の第2回では、その実践の中身=生成AIパイロット校478校の取り組みと、「校務で活用した学校の98%が働き方改善を実感」というデータの詳細を読み解きます。
教育現場のAI活用を、研修コンテンツで支えます
エレファンキューブは、eラーニング教材や研修動画の企画・制作を専門とするデジタル教育コンテンツの制作会社です。教職員向けの生成AI研修動画や、児童生徒向けの情報活用能力育成教材など、インストラクショナルデザインの知見にもとづいたコンテンツ制作をお手伝いします。ガイドライン改訂を見据えた研修づくりをご検討の際は、お気軽にご相談ください。
出典・参考資料
- 文部科学省「デジタル学習基盤特別委員会(第10回)配布資料」(2026年6月30日)
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/093/siryo/mext_00004.html - 同 資料1「学校教育におけるAI活用に関するこれまでの取組と今後の方向性」(PDF)
https://www.mext.go.jp/content/20260630-mxt_shuukyo01-000050664_2.pdf - 文部科学省「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」(2024年12月26日公表)
https://www.mext.go.jp/a_menu/other/mext_02412.html
※本記事の内容は2026年7月時点の公開資料にもとづいています。ガイドライン改訂は検討段階であり、今後の議論により内容や時期が変わる可能性があります。
最終更新日: 2026-07-07

