「認知的オフロード」とは?AIで学力が下がる?文科省とOECDが示した学校AI活用のリスクと対策文部科学省が2026年6月30日に公表した資料によると、生成AIの活用を実践する「生成AIパイロット校」は、令和8年度に全国478校・149自治体(認定校を含む)まで広がっています。また、教職員の半数以上が校務で生成AIを活用した学校のうち、98%が「働き方の改善に効果があった」と実感しているというデータも示されました。この記事では、文部科学省・デジタル学習基盤特別委員会(第10回)の配布資料をもとに、学校のAI活用が「どこまで」「どのように」進んだのかを、具体的な事例と数字で読み解きます。
本記事は、学校のAI活用のいまを読み解く全3回シリーズの第2回です。第1回では生成AIガイドラインVer2.1への改訂検討の背景と論点を解説しました。第3回では「認知的オフロード」をキーワードに、AI活用のリスクと対策を取り上げます。
目次
数字で見る、学校のAI活用の現在地
生成AIパイロット校とは、文部科学省の事業指定を受けて、ガイドラインを守りながら生成AIの活用事例をつくり、その成果と課題を検証する学校のことです。指定校の数は年々増えており、令和6年度の66校から、令和7年度には281校(協力校を含む)へ、そして令和8年度には3つの区分をあわせて478校・149自治体(重複を除いた実数、認定校を含む)にまで拡大しました。
令和8年度のパイロット校は、目的に応じて次の3つの区分に分かれています。
| 区分 | 内容 | 規模(指定校) |
|---|---|---|
| A:教育利用 | 児童生徒の学習場面での活用 | 10自治体・33校(ほかに認定校74校) |
| B:校務利用 | 教職員の校務での活用 | 100自治体・261校(ほかに認定校16校) |
| C:教材実証 | AIを含む情報活用能力育成教材の実践・実証 | 51自治体・146校(ほかに認定校32校) |
※区分間の重複を除いた実数が149自治体・478校です。校務利用が最も多いことからも、まず「先生の仕事」からAI活用が広がっている様子がうかがえます。
授業での活用:小学校から高校まで、こんな使い方が生まれている
資料1では、児童生徒の学習場面での活用事例として、小学校から高校までの実践が紹介されています。いずれも「AIに答えを出させる」のではなく、学びを深める道具として位置づけている点が共通しています。
- 小学校・情報モラル教育(大阪市立高殿小学校):生成AIで作成した記事と実際の記事を見比べ、AIとの付き合い方を考える授業。児童からは「情報をすぐに信じるのではなく、いろいろな資料と照らし合わせて考えることが大切だと感じた」という声が上がっています
- 中学3年・英語科(宮城県岩沼市立岩沼北中学校):憧れの人物を英語で紹介する活動で、自分の英作文を生成AIに入力し、より自然な表現の提案を受ける。音声入力を使うことで、自分の発音の確認にもつながりました
- 中学2年・国語科(茨城県つくば市立学園の森義務教育学校):グループの話し合いに生成AIから「別の視点」をもらい、議論を深める。生徒はAIの視点も材料にしつつ、最終的な結論は自分たちで出していました
- 高校1年・情報科(茨城県立竜ヶ崎第一高等学校):Pythonでのアプリ制作にAIを活用。プロンプトを工夫しながら目的に合うコードを組み込み、「自分では書けないプログラムを見て勉強できた」という反応がありました
校務での活用:98%が働き方改善を実感
今回の資料でとくに注目したいのが、校務(先生の事務仕事や授業準備など)での活用データです。学校の自己点検調査(GIGAスクール構想の下での校務DXチェックリスト)によると、教職員の半数以上が校務で生成AIを活用した学校のうち、98%が「働き方の改善に効果があった」と実感しています。一方で、資料は校務での生成AI活用そのものは「取組は道半ば」とも指摘しており、使った学校では高い効果を感じているものの、まだ活用していない学校が多いのが現状です。
では、実際にどれくらい仕事が楽になっているのでしょうか。資料1には、業務時間の削減例が具体的な数字とともに示されています。
| 業務 | 取組例 | 時間の変化 |
|---|---|---|
| 学習指導案の作成 | 事前に用意したプロンプトで素案を出力し、それをもとに仕上げる(東京都八丈町) | 90分 → 約30分 |
| 通知表の所見の素案作成 | 安全性が確保された専用環境で生徒ごとにプロンプトを工夫(埼玉県新座市) | 約1か月 → 約1週間 |
| 研修報告書の素案作成 | AIの文案をたたき台に仕上げる(兵庫県宝塚市) | 5〜6時間 → 約1時間 |
| 進学関連の情報収集 | 奨学金・補助金制度の情報をまとめて収集し、ファクトチェックして活用(神奈川県川崎市) | 約1時間 → 約20分 |
| アンケートの要約・分析 | 複数の回答結果をもとに客観的な考察を出力(沖縄県石垣市) | 約2時間 → 約30分 |
| 学校HPの記事作成 | 記事作成の負担を軽減し発信を強化(茨城県かすみがうら市) | 月6件 → 月13.88件に増加 |
このほかにも、時間割の作成(東京都八丈町立富士中学校)、毎時間のミニテストづくりの自動化(沖縄市立諸見小学校)、外国にルーツを持つ子どもの家庭に向けた学級通信の翻訳(奈良市立鼓阪小学校など)といった事例が生まれています。ガイドラインが例示する「児童生徒の指導に関わる業務」「学校の運営に関わる業務」「外部対応」のいずれの領域でも、実例が積み上がってきた段階といえます。
なお、通知表の所見のように児童生徒の重要な情報を扱う業務は、一般向けの生成AIサービスには入力できません。そのため文部科学省は、セキュリティが担保された環境で校務データを活用する実証研究を令和6・7年度に実施しており、上記の新座市の事例はその成果の一つです。
うまくいっている学校の共通点【筆者の考察】
ここからは、教育コンテンツ制作に携わる立場からの筆者の考察です。資料の事例を読み比べると、成果を出している学校にはいくつかの共通点が見えてきます。
1つめは、プロンプト(AIへの指示文)を「仕組み」にしていることです。八丈町の指導案作成では、事前に作成したプロンプトを使うことで、担当教員が期待する6〜8割程度の完成度の出力を安定して得ています。個人の試行錯誤で終わらせず、うまくいった指示文を型として共有することが、学校全体の時間削減につながっています。
2つめは、AIの出力を「完成品」ではなく「たたき台」と割り切っていることです。宝塚市の研修報告書の例では、AIの文案と自分の記憶を照らし合わせることで、かえって抜け漏れに気づけたといいます。最後は人間が確認し仕上げるという役割分担が、品質と効率を両立させています。
3つめは、孤立させない支援の場があることです。パイロット校事業自体が、キックオフ会議、夏季学習会、オンライン座談会、全国キャラバン、成果報告会という5つの機会を用意し、教員同士が悩みや実践を共有できるように設計されています。研修と横のつながりをセットにするこの構造は、一般の学校や企業の研修設計にもそのまま応用できる考え方です。
これからの方向性:ガイドライン改訂と「手引き」の作成へ
こうした実践の蓄積は、次の政策につながっていきます。文部科学省は、これまでの知見を踏まえて令和8年度中に教育委員会の担当者向けに校務での利活用の手引きを取りまとめる予定であり、あわせて生成AIガイドラインをVer2.1へ改訂する検討も始まっています。改訂の背景と検討されている6つのポイントは、シリーズ第1回の記事で詳しく解説しています(→第1回記事へのリンク)。
よくある質問(FAQ)
生成AIパイロット校とは何ですか?
文部科学省の事業指定を受けて、生成AIの活用事例をつくり、成果と課題を検証する学校です。文部科学省のガイドラインを守ることが前提で、令和8年度は教育利用・校務利用・教材実証の3区分あわせて478校・149自治体(認定校を含む)が取り組んでいます。
パイロット校ではない一般の学校でも生成AIを使えますか?
使えます。文部科学省のガイドライン(Ver2.0)は一律の禁止や義務付けを求めるものではなく、リスクへの対策を講じたうえで場面に応じた活用を検討する枠組みを示しています。まずは教育委員会の方針を確認し、ガイドラインのチェック項目を参考に、校務など影響が間接的な場面から始める学校が多いようです。
校務での活用は何から始めるのがよいですか?
個人情報を含まない業務が出発点になります。実際の事例でも、研修報告書や指導案の素案づくり、アンケートの要約、学校HPの記事作成などから成果が生まれています。児童生徒の成績や所見など重要な情報を扱う場合は、一般向けサービスには入力せず、セキュリティが担保された専用環境が必要です。
まとめ:シリーズ次回は「AIで学力は下がるのか」
学校のAI活用は、478校のパイロット校を先頭に、授業でも校務でも具体的な成果が数字で見える段階に入りました。とくに校務では、活用した学校の98%が働き方の改善を実感しています。一方で、資料1はAI活用のリスクについても、国内外の最新研究を引きながら率直に整理しています。次回の第3回では、その中心的なキーワードである「認知的オフロード」~AIに考える過程を肩代わりさせてしまう現象~について、OECDの最新報告書とあわせて詳しく解説します。
教職員向けのAI研修コンテンツづくりをお手伝いします
エレファンキューブは、eラーニング教材や研修動画の企画・制作を専門とするデジタル教育コンテンツの制作会社です。今回ご紹介した事例のように、生成AI活用の成功の鍵は「良い実践を、型にして、共有する」ことにあります。教職員向けの生成AI研修動画、プロンプト活用ガイド教材、校内研修用コンテンツなどの制作をご検討の際は、お気軽にご相談ください。
出典・参考資料
- 文部科学省「デジタル学習基盤特別委員会(第10回)配布資料」(2026年6月30日)
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/093/siryo/mext_00004.html - 同 資料1「学校教育におけるAI活用に関するこれまでの取組と今後の方向性」(PDF)※本記事の事例・数値の出典
https://www.mext.go.jp/content/20260630-mxt_shuukyo01-000050664_2.pdf - 文部科学省「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」(2024年12月26日公表)
https://www.mext.go.jp/a_menu/other/mext_02412.html
※本記事の数値・事例はすべて上記資料にもとづいています(2026年7月時点)。「98%」は、教職員の半数以上が校務で生成AIを活用した学校を対象とした自己点検調査の結果であり、全学校を対象とした数値ではない点にご留意ください。
最終更新日: 2026-07-07

