約40年ぶりとなる労働基準法の抜本的改正が、いよいよ現実味を帯びてきました。「勤務間インターバル制度の義務化」「連続勤務の上限規制」「法定休日の事前特定」──これらの改正案は、すべての企業の人事・労務管理に大きな影響をもたらします。
本コラムでは、改正の背景と全体像を整理したうえで、企業が”今から”取り組むべき5つの対策を解説します。
なぜ今、労基法が変わるのか?──改正の背景
「昭和の法律」が令和の働き方に追いつけなくなった
現行の労働基準法は1947年(昭和22年)に制定され、直近の大きな改正は1987年(昭和62年)にまで遡ります。つまり、現在の労働時間に関する基本的な枠組みは、約40年前の社会構造に基づいて設計されたものです。
しかし、この40年間で日本の労働環境は劇的に変化しました。
- 働き方の多様化:テレワーク、フレックスタイム、副業・兼業の普及
- 過労死・メンタルヘルス問題の深刻化
- 人手不足による一人あたり業務負荷の増加
- EU諸国との制度格差:EU加盟国では勤務間インターバル11時間が既に法制化
こうした背景を受け、厚生労働省は2024年に「労働基準関係法制研究会」を設置。従来の”残業規制の強化”にとどまらず、休息・休日の確保という「労働者の生活と健康を守る」視点からの改正が検討されてきました。
参考: 厚生労働省「労働基準関係法制研究会 報告書」(2025年1月公表)
改正の全体像──3つの柱を詳しく解説
【柱①】勤務間インターバル制度の義務化
▶ 現状
勤務間インターバル制度とは、終業から翌日の始業までに一定の休息時間を設ける制度です。2019年4月から「努力義務」として導入されていますが、実際の導入率は極めて低い水準にとどまっています。
| 調査年 | 導入率 |
|---|---|
| 令和6年(2024年) | 5.7% |
| 令和7年(2025年) | 6.9% |
| 政府目標 | 15%以上(令和7年までに) |
出典:厚生労働省「就労条件総合調査」/「過労死等の防止のための対策に関する大綱」
▶ 改正の方向性
研究会では、原則11時間以上の勤務間インターバルを法律で義務化する方向で議論が進められています。これはEU加盟国の「EU労働時間指令」で既に法制化されている水準と同じです。
▶ 企業への影響
- 深夜まで働いた翌日、始業時間を繰り下げる運用が必要に
- シフト勤務の組み方を根本的に見直す必要がある業種も
- 「翌朝まで仕事をして、そのまま出社」が法的にNGになる可能性
【柱②】連続勤務の上限規制(14日以上の連続勤務禁止)
▶ 現状の問題点
現行法では、休日は「毎週少なくとも1日」または「4週間で4日」与えればよいとされています(変形休日制)。この4週4休の制度を使うと、理論上は最大48日間の連続勤務が可能という問題がありました。
実際に、繁忙期に長期間の連続勤務が常態化している業種(医療、物流、サービス業など)も存在します。
▶ 改正の方向性
14日以上の連続勤務を禁止する(=13日を超える連続勤務は認めない)方向で検討されています。
▶ 企業への影響
- 4週4休の変形休日制を採用している企業は、休日配置の見直しが必要
- 繁忙期の人員配置計画を再設計する必要がある
- 「休日出勤→代休」の運用ルールも再検討が必要
【柱③】法定休日の事前特定の義務化
▶ 現状の問題点
多くの企業では、就業規則に「週休2日」と記載しつつも、どの曜日が「法定休日」で、どの曜日が「所定休日」なのかを明確にしていないケースが少なくありません。この曖昧さが、休日労働の割増賃金の算定トラブルや、連続勤務の管理困難につながっていました。
▶ 改正の方向性
就業規則等で、法定休日をあらかじめ特定することが義務付けられる見通しです。
▶ 企業への影響
- 就業規則の見直し・改定が必要
- 勤怠管理システムの設定変更が必要になる可能性
- 休日労働の割増賃金(35%以上)の計算方法が明確に
企業が今から備えるべき5つの対策
法案の国会提出時期はまだ確定していませんが、法改正が施行されてから対応を始めたのでは間に合いません。研究会の報告書で示された方向性は、法改正の有無に関わらず「あるべき労務管理の姿」として推奨されるものです。
以下の5つの対策を、今のうちから段階的に進めていくことをおすすめします。
対策① 自社の実態把握と影響度の可視化
最初に取り組むべきは、自社の”今”を正確に知ることです。
チェックポイント:
- 連続勤務が14日以上になっている従業員はいないか?
- 勤務間インターバルが11時間未満になるケースはどれくらい発生しているか?
- 法定休日はどの日として運用されているか、明確に定義されているか?
- 4週4休の変形休日制を採用している場合、連続勤務の最大日数は?
勤怠データを分析し、改正案との乖離がどの程度あるのかを可視化することが第一歩です。
対策② 勤怠管理システムの見直し
勤務間インターバルの管理や連続勤務日数のアラートなど、新たな管理要件に対応できるシステム環境を整備する必要があります。
- クラウド型勤怠管理システムの導入・アップグレード
- 勤務間インターバルの自動計測・アラート機能
- 連続勤務日数の自動カウント・警告機能
- 法定休日の自動判定・割増賃金の正確な計算
システムベンダーと早めに連携し、法改正に備えたアップデート計画を確認しておくことが重要です。
対策③ 就業規則・雇用契約書の点検と改定準備
法改正を見据え、就業規則や雇用契約書の曖昧な部分を事前に洗い出しておきましょう。
とくに確認すべき項目:
- 法定休日の特定(「日曜日を法定休日とする」等の明記)
- 変形休日制を採用している場合の連続勤務の上限規定
- 勤務間インターバルに関する規定(現在努力義務として定めているか)
- 休日出勤・代休・振替休日の取り扱いルール
社会保険労務士や顧問弁護士と連携し、法改正時にスムーズに改定できる準備を整えておくことをおすすめします。
対策④ 管理職向けの教育研修(これが最重要)
法改正への対応で最もおろそかにされがちで、かつ最も重要なのが「管理職の教育」です。
いくら制度やシステムを整備しても、実際に部下の労働時間を管理する現場の管理職が法改正の内容や趣旨を理解していなければ、法令違反は防げません。
管理職研修で押さえるべき内容
| テーマ | 具体的な研修内容 |
|---|---|
| 法改正の概要 | 改正の3つの柱(インターバル・連続勤務・休日特定)の内容と背景 |
| 自社ルールへの影響 | 自社の就業規則・勤怠ルールが具体的にどう変わるか |
| 日常の労務管理 | 部下の勤怠チェック、シフト作成時の注意点、休日取得の促し方 |
| リスクシナリオ | 法令違反が発生した場合の企業・個人のリスク(是正勧告、罰則等) |
| ケーススタディ | 「繁忙期にインターバルが確保できない場合は?」等の実践的な対応 |
対策⑤ 最新情報のキャッチアップ体制を構築
改正の議論は今も進行中であり、今後の国会審議や労働政策審議会の動向次第で内容が変わる可能性もあります。
- 厚生労働省の公式発表を定期的にチェック
- 社労士事務所や労務管理系メディアからの情報提供を受ける体制づくり
- 社内の人事・総務チーム内で法改正の最新情報を共有する仕組みの構築
- 「確定してから動く」のではなく、「方向性が見えた段階で準備を始める」のが、法改正対応の鉄則です。
法改正は「組織力を高めるチャンス」
今回の労基法改正は、企業にとって負担増に見えるかもしれません。しかし、十分な休息の確保や適切な休日管理は、従業員の健康維持、生産性向上、そして人材の確保・定着につながるものです。
法令遵守(コンプライアンス)は当然として、これを「組織力を高めるチャンス」と前向きに捉え、段階的に準備を進めていきましょう。
| 対策 | いつ始めるか | 想定工数 |
|---|---|---|
| ①実態把握 | 今すぐ | 1〜2週間 |
| ②勤怠システム見直し | 半年以内 | 1〜3ヶ月 |
| ③就業規則の点検 | 半年以内 | 2〜4週間 |
| ④管理職研修の整備 | 今すぐ着手 | 1〜2ヶ月 |
| ⑤情報キャッチアップ | 今すぐ | 継続的 |
エレファンキューブにできること
労働基準法改正に向けての研修にはeラーニングの活用がおすすめです
管理職向けの研修は、集合研修だけではカバーしきれないケースが多くあり、eラーニングでの学習には、下記のメリットがあります。
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- 法改正への追従:教材の更新が容易で、最新の法改正内容を迅速に反映
- 繰り返し学習:一度きりの集合研修と違い、必要なときに何度でも復習可能
私たちエレファンキューブは、eラーニング教材・デジタルコンテンツ制作の専門会社として、3,000件以上の教材制作実績があります。法改正対応の管理職向け研修教材についても、以下のようなご支援が可能です。
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- 法改正後の教材アップデートにも対応
「教材制作の経験がないので、どう作ればいいかわからない」という方も大丈夫です。企画段階からご一緒に考えますので、まずはお気軽にご相談ください。
※2026年5月時点で、改正法案の国会提出時期および施行時期は「未定」です。本コラムの内容は、厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」報告書等に基づく「改正の方向性」を整理したものであり、最終的に成立する法律の内容とは異なる可能性があります。最新の動向については、厚生労働省の公式発表をご確認ください。
最終更新日: 2026-06-25

