さかのぼりeラーニング史

今、eラーニングや学習アプリが世の中にはたくさんあります。リッチなコンテンツで、いつでもどこでも一人で学習できるようになっていますが、どのような歴史を辿って、このような形になったのでしょうか。
現代から「機械で学ぶという発想の原点」に向けて、少しずつ紐解いてみましょう。

目次

スマートデバイスの登場 (2010年代~)

今ではモバイル端末でリッチな表現や高品位な動画の閲覧をできるようになりましたが、これらはスマートフォン・タブレットの普及により端末の処理能力の向上と通信速度の向上によって実現しました。

2010年代以前は、 通信費的にも、通信速度や端末の処理能力的にも、「いつでもどこでも」という形ではありませんでした。

インターネットによる個別学習の時代 (2000年代~, WBTの時代)

Web技術を用いることで、これまでよりも一人ひとりに合わせた教育が実現できるようになりました。

インターネットが家庭に普及しはじめたのは1990年代の後半から2000年代にかけてです。インターネットやイントラネットなどを介して教材を配信するなどWebを用いた仕組みが出来あがりました。このことから WBT : Web Based Training と呼ばれることもあります。このあたりから企業を中心に、インターネットとLMSを使ったeラーニングがはじまります。また、とくにブロードバンドが普及しはじめた2000年代後半からは、動画のライブ配信なども実現されはじめます。

それ以前のコンピュータを使った学習と違う部分はどこにあるのでしょうか。

LMSによる受講管理

それ以前との一番大きな違いは、学習を管理する LMS : Learning Management System の登場でしょう。常に管理者側と学習者がネットワークで繋がっていることで、学習の管理を行えるようになってきます。

たとえば、誰がどのような教材をいつからいつまで学習できるのかを指定したり、誰がどの教材をどこまで進めているのかなどを知ることができるようになりました。
逆にいえば、それまでは、各々が各自のコンピュータで動作し、学習記録などもそれぞれのコンピュータの中に保存されていたため、モチベーションや進捗の管理などは各自で行うしかありませんでした。

教材の修正・改訂が容易に

インターネットにより教材が配信されるようになってからは、修正や改訂が簡単になりました。それよりも前は、基本的にインターネットに繋がっていないコンピュータで学習しており、そのメディア(記録媒体)は基本的にCDやDVDなどで、修正はインターネットに比べて気軽に行うことができませんでした。

家で深く学ぶ時代 (1990年代後半 CBTの時代)

家庭や教育現場にパーソナルコンピュータが普及し、CD-ROMにより画像・映像を使った学習が可能になりました。

では、インターネットが普及する前、コンピュータでどのように学習していたのでしょうか。一般家庭にパーソナルコンピュータが爆発的に普及するきっかけとなったのは1995年のWindows 95の登場が大きいでしょう。CDを読み込むことのできるコンピュータが各家庭にある時代の幕開けです。

このころは、CBT : Computer Based Training と呼ばれていました。

家庭や各学校で学習できるようになる

パーソナルコンピュータの普及・低価格化により、家庭や教育現場にも広く普及しはじめたのがこの時代です。

これよりも前の時代は、高機能なコンピュータが家や大学以外の教育現場にあることは、あまり一般的ではありませんでした。

マルチメディアによる学び

CD-ROMドライブも普及したことにより、従来より大きなファイルサイズのものが扱えるようになりました。たとえば簡単な動画や写真・イラストなどを駆使した学習が可能になりました。また、よりリッチなゲーム型の教材なども、子ども向けを中心に普及しはじめました。

コンピュータ学習の黎明期 (1960年代~, CAIの時代)

家庭に普及する前に、コンピュータによる学習がまったくなかったかといわれるとそうではありません。

コンピュータ支援教育のイメージ画像です。当時のコンピュータはとても高価でした。

1958年に、米国で研究・開発され、CAI : Computer Aided Instruction / Computer-Assisted Instruction(コンピュータ支援教育) という概念が生まれます。60年代から80年代まで、米国の大学を中心に、さまざまなシステムが開発・提案されました。

日本ではコンピュータそのものの価格が高かったこともありなかなか普及しませんでしたが、それでもいくつかのCAIシステムが提案されていました。

これらが本格的に普及したのは、1980年代、パーソナル・コンピュータの出現によるところが大きいでしょう。そのころには徐々に大学以外の教育現場にも徐々に導入されはじめます。

ひとりひとりに合わせた学習

コンピュータで学習する最大のメリットは、個別学習ができることでした。ひとりひとりの能力に合わせて、適切な問題を提示する仕組みを目指していたのです。教師が機械になることで、ひとりひとりの状況に応じてカスタマイズされた教育を受けることができるようになったのです。

機械で学習をするという発想の原点 (1950年代)

では、そもそも誰が「機械」で学習をするというアイデアを思い付いたのでしょうか。そのためには、少し心理学のお話をしなければなりません。みなさんは「オペラント条件づけ」という心理学用語をご存知でしょうか。

空腹のネズミを、ブザーが鳴ったときにレバーを押すとエサが与えられる箱に入れます。そうすると、ネズミたちは徐々にブザーが鳴るとレバーを押す確率が上がります。これを見付けたのは行動心理学者のスキナーという人です。彼は、生物が「どのように覚えるか」の基本的な理論を発見したのです。

さて、話を戻します。スキナーさんが娘さんの授業参観に参加したとき、悲しみをおぼえます。なぜなら、学校の教育が自分たちの頃から全く進歩していない、つまりただ先生の言うことを聞き、板書を写すだけという状況だったからです。彼やほかの心理学者が発見した理論に、教育はまったく沿っていないと感じた彼は、次のような原則が望ましいと考えます。

  • 学習者の偶発的な行動から始まること
  • 少しでも「望ましい行動」をした場合は、すぐにフィードバックすること
  • 目標を決め、それに向けて注意深く組み立てられた順序に則って行われること (いわゆるスモールステップ)

しかし、この理想を実現するには、教師を人間がするのは大変だと考え「ティーチング・マシーン」を作ることで解決しようとします。ティーチング・マシーンといっても、これは機械ではなく本であってもよいのです。スキナーさんがティーチング・マシーンとして娘さんの学習のために作った本には、例示と穴埋め問題があり、すぐ次のページに答えが載っているというものでした。

穴埋め問題になにかを書き込むという行動から始まり、次のページを見れば望ましい行動をしたと分かります。問題は本当に少しずつ段階を上げていき、目標に向かっていく形になっていました。

現代に立ち戻って (EdTechの時代へ)

さて、現代の私達が身の回りを見てみましょう。「学習アプリ」や「eラーニング」の、とくに一人で学習するタイプのもののほとんどは「スモールステップで、正しい回答をすればすぐに正答が分かる」というスキナーの基本的な原則に則っていますね。

もちろん、今まで見てきたように、技術の革新によってその表現はよりリッチになりましたし、出題の形式なども増えましたし、分析をして人に合わせて出題の方法を変えたりといった部分もより洗練されてきました。その一方で、スキナーの見つけたこの基本的な「ティーチング・マシーン」の考え方が応用されているのです。

モバイル端末や様々な技術により、今後も多彩な学習環境が生まれてくるはずです。

しかし、これまで見てきたように、見せ方や学び方の部分は時代によって大きく変化してきました。EdTechに代表されるように、今後はVRやAI、IoTなどの最新技術を盛り込んだ、より多彩な学習環境が生まれてくることでしょう。